2014年11月22日土曜日

本とはモノである―新潮社新書「編集者の仕事」柴田光磁

Webの世界にいますと、「こだわり」って薄くなってしまいますよね。 

Webの戦略の基本はいわゆる「PDCA」。とにかく世に出す、そして反応をチェックし、どんどん改善していく。多少乱暴に言いますと「多少、使いにくさがあってもユーザの反応を見てドンドン改善していきゃいいや」という世界です。 

さらには、コンテンツの正確性については、「間違ってても後で修正できるし」的な感覚で作ってしまいがちです(いや、大きな声では言えませんが 笑。特にネットメディアからスタートした若いライターさんとかはどこかでそう思っている人もいなくもないと思う)


編集者の仕事―本の魂は細部に宿る―(新潮新書)[Kindle版]

内容の正確性。美術性。機能性。
ところが、(とても当たり前だけど)印刷して「もの」となった新聞や本や雑誌は直すってことはできません。だからこそ、そのモノづくりには半端無く高い正確性が要求されます。 

また、特に本はお気に入りのペンや時計の様に、「所有物」としての側面がある。つまり、工芸品として美術性や意匠性、更には機能性が求められるわけです。 

そんな本づくりの現場を、新潮社の編集者である筆者が分かりやすく語る本。筆者いわく「本がこれまでよりもっと面白くなる本」ということです。


スピン(文庫本とかにあるシオリの役目を果たすヒモ)について
「新潮文庫は上部をカットせず(「二方断ち、天アンカットと呼ぶ」)スピンを入れています。栞より費用がかかるため、年間数千万部という数字を考えると経済的な負担はかなりのもので、いかにこの細い紐を重視しているかがお分かりいただけるのではないでしょうか」
たとえば電車で本を読んでいて降りる時「スピンも栞もない!」となると、ページのスミを罪悪感を感じながら「グッと」折るしかない。

確かにスピンのある本のほうが、そういう時便利ですよね。こんな便利さを支えるために、企業努力していたとは。なるほど。

「目次」にも作り手のこだわりが
「目次がその本の魅力を伝えない要因は、内容と体裁の面の二つに分けて考えられます。まず、内容。章題や小見出しの言葉がすっきりしていないと、つまり編集者が上手に整理をしていないと、その本の特徴はうまく伝わってこない。」
「体裁も重要。書体の選択や行間のバランスが悪いと、ゴチャゴチャしたしたり締まりが無くなってしまい、途端に魅力が薄れていく」
おお。目次って単なる章題をまとめたページじゃないんですね……。ここにも「少しでも魅力的な本づくりをしよう」という、作り手のこだわりが見られるというわけです。ちなみに目次は通常、編集者がつくるそうです。

校正、畏るべし
校正の役割は
「(1)原稿、すなわち筆者の不備を正す(2)指定、すなわち編集者の不備を正す。(3)組版、すなわち印刷所の不備を正す」
通常、制作の現場では編集や「校正さん」という人がいて、文章の誤りなどをチェクしてくれます。しかしながら、現場の第一線の校正さんは誤字脱字の誤りはもちろん、「表記の統一」「内容の正確さ」「引用元の体裁のチェック」までを行い、極めて正確性の高い状態にチェックを入れてくれます。 

筆者が唸った例では、小説のある主人公が北海道の海岸で北斗七星を見るシーンに対して、「この時期にこの場所からは見えないハズです」といったチェックが戻ってきたそうです。

全集ができるまで
「編集者としては、実際に手掛けてみないとなかなかわかりにくいのですが、通常の単行本では得られない編集の妙味が随所にあります」
筆者によると、全何巻とし、そこにどう作家を割り振るかの「基礎設計」も大変重要な作業ということです。

というのも、作家によっては「あの作家と一緒になりたくない」といった人間関係をうまく把握する必要などがあるそう。筆者は「いわば人事です」とも述べています。

最後に
いかがでしたでしょうか。「情報はネットでみるからいーや」と思っている僕達にとって、本の威力を再発見できた一冊だったかと思います。

また、出版社や編集者の「読みやすい本にするための工夫」を知ることで、「工夫の緻密さ」=「体裁」から本の良し悪しを見分けられるようになるといった「ツウ」の視点を身につけることができた体験でした。

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